「富士ニュース」平成20年9月2日(火)掲載
第119話
Meiso Jouki
■ 『命について、じっくり考えてみよう』というテーマを掲げた一泊二日の夏休み子ども坐禅会に招かれ、一時間ほど話をさせていただきました。
「みなさん、こんばんは。
今回、どうしてもみんなに持ってきてほしい大事なものがありました。もし忘れたら今から家まで取りに帰ってもらわなきゃならないんだけど…みんな大丈夫かなぁ…」
子どもたちの顔色がさっと変わり、不安げに声が上がります。
「それ、もしかして、ペットボトル?」
「あ、ぞうきん!」
「(笑)そうか、そんな持ち物があったんだ。それは持ってきた? でも和尚さんが心配していたのは別のものだよ。それはね『いのち』!」
ふっと一斉に、子どもたちの顔がほころびます。
「なぁんだ。大丈夫だよ、忘れっこないじゃん」
「よかった。じゃその命、持ってくるときどうやって持ってきたのかな。カバン? 手で持ってきた? 重かった?」
「重いわけないじゃん。生まれたときから、ずっと体と一緒だよ」
和尚さんはそんなことも知らないの?と、あきれたように教えてくれる子どもたちを相手に、身近な生き物の命について一つ一つ確認しながら、目には見えないけれど大切に思ってほしい命のお話は、進んでいきます。
■「…今まで命のしくみについていろいろ話してきたけれど、もっと大切なことがあります。それはね、『どんな命も幸せになりたいと願っている』と思ってあげて、身の回りの生き物に接してあげるということです。君たちだってそうでしょ。幸せになりたくない人、いますか? いつもいつも悲しくてつらくて嫌な気持ちで暮らしたいと思っている人はいますか?
いないよね。周りの生き物もきっと同じです。だったら、どうすればまわりの命が喜ぶが考えてみようか。ペットはどうすれば幸せ?」
「お散歩につれていく」「いっぱい遊んであげる」「ほめてあげる」「ご飯あげる」…
「じゃあ、お花は?」
「お水をあげる」「枯れたの取ってあげる」「周りの雑草抜く」「土を取り替えてあげる」…
「そうだね。大切な生き物はそうしてあげればいいね。じゃあ、嫌な生き物はどう? ムカデとか、ゴキブリとか、蚊は…どうしたら幸せになれそう?」
「…殺さない…」
「そうできればいちばんいいね、嫌な生き物だって、宇宙に一つしかない大切な命だもんね。でも、そのまま放っておくと、私たちがけがをしたり病気になったりすることもあるから、やっぱり退治しなきゃならないことがあります。でも、退治したときもね、『やったぁ、ザマミロ!』じゃなくて、せめて(ごめん!)って謝る気持ちがほしいね。君たちだって、学校の廊下で誰かがぶつかってきて、何も言わないで逃げたらどんな気持ちがする? でも、ぶつかった後で『ごめん』と謝られたらどう? 害虫だって同じじゃないかな? せめて謝る気持ちを持ってあげようよ。相手の気持ちになってみようよ」
■草花から、虫・小動物、さらには食べ物へと、幸せを願う命のネットワークはあれこれ展開し、最後には、さまざまな生き物の命に活かされている「私」の命に気づいてもらえたら…。
子どもたちに向けた夏の一夜でした。
命のお話
文・絵 長島宗深