「富士ニュース」平成17年8月30日(火)掲載

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Meiso Jouki

 境内に出て外作務をしていると、いろいろな方が声をかけてくださいます。
「和尚さん、無理しないでよ。何しろここは広いんだから、きりがないよ。怪我、気をつけて、ボチボチやってくださいよ」
 お墓まいりにみえた檀家さんです。
 年に何回か御用聞きに立ち寄る「法衣店」さんに出会うと、
「和尚さんはよくこうして外仕事をされておいでで…。私は全国を回るが、こんなに作務をされる和尚さんはめったにお見かけしませんよ、ご精進されますなぁ」。
 墓地に仕事に来た石屋さん。汗だくで炎天下の急斜面の草刈りをしている私を見て近づき、
「誰かと思ったら…やっぱり和尚さんですか。まさかと思って。お坊さんでも、こんなにきついことするだねぇ!」。
 山の畑仕事で通りかかったご近所のおじいさんは、立ち止まってしばらく私の姿を眺め、しみじみとひと言。
「うーん、人の上に立たれる方は、ほんとに、こうした荒いことも何でもなさるだねぇ。立派なことだ、感心だ…」

 私は(いやいや、決してそれほどのことはありません)と、ニコニコ笑ってただただ恐縮するばかりです。というより、こんなありがたい言葉の数々をいただいて、実は、心底申し訳ないなぁと感じている私なのです。
 なぜなら、何を隠そう私は、作務が大好きだからです。
 義務やノルマでしぶしぶ作務をしているのではなく、むしろ自ら時間をひねり出し、楽しんで取り組んでいるのです。決して褒めていただくようなことではないのです。
 特に、暑い時期の外作務が好きです。本当なら毎日でも外に出ていたいのですが、行事の多い夏は、なかなかそういうわけにはいきません。
 ですから、たまに願いが叶うと、つい夢中になり、休憩さえ忘れてのめりこんでしまうことが度々なのです。

 作務の中でも特に快適なのは、機械での草刈りです。趣味は、「イラストと草刈り」、と講演の講師プロフィールでも紹介していただいているほどですから。
 元来体を動かすことが好きな私にしてみれば、毎日じっと座ってばかりだったサラリーマン時代のつらさ(?)を思えば、荒作務の後の疲れなど、ちっとも苦にはなりません。むしろ、逆に充実感に結びつくくらいです。
 さらに、きれいに刈られて整備された境内のすがすがしさは、何よりのご褒美です。
(お観音さんも、さっぱりして、きっと喜んでくれるだろうなぁ)
(お参りの人が、ふっと、心なごませてくれたらいいなぁ)
 お堂を守る務めの者として、もちろんそんな感慨は頭を過ぎりますが、でも、何より、私自身がすっきりさわやかな心持ちにさせていただいているのです。
 こんないい思いをして、その上褒められては、それこそいま流行りの言葉で言えば「もったいない」のですが、思うにこれも、お観音さんのありがたいご利益というものなのかもしれませんね。

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明窓浄机

趣味は草刈り

文・絵 長島宗深