「富士ニュース」平成16年2月10日(火)掲載
第59話
Meiso Jouki
■ ヘイリーは、十八歳。
先日までわが家にホームステイしていた、ニュージーランドのお嬢さんです。
日本語が多少は話せますので、日常会話には事欠きません。四か月の滞在中、ことに食事どきは恰好の異文化交流の場になりました。
「ピンズ&ニードゥルズ!」(画びょうと針)
食後、足がしびれて立てなくなった時の彼女の悲鳴です。ちくちくする、ということなのですね。
ケーキを前にして、みんなで元気に叫びます。
「ロック・シーザー・ペーパー。123!」
岩・ハサミ・紙…? そうです。ケーキ選びのじゃんけん、グーチョキパーの真剣勝負です。
目玉焼きは「サニー・サイド・アップ」。卵の黄身をお日さまに見立てて、「お日さまの面(サニーサイド)が上を向いている」ということだそうです。なるほど。
■ こんな時間を共に楽しみながらも、初めて日本暮らしをする彼女にとって、食事は、ひとつの難関でもありました。
わが家にステイする前にすでに何か月か日本の家庭でお世話になっていたのですが、来日当初は、ごはん・味噌汁・豆腐といった、日本固有の食べ物に手が出ないのはもちろんのこと、欧米人にはなじみが深いのではと思われるチーズ・牛乳も苦手。スパゲッティーでさえも「こんな長いパスタは初めて」と、ナイフとフォークを使うありさまだったそうです。
迎え入れ前の私たちはちょっと不安になりました。わが家の朝食は、ご飯・味噌汁・納豆・煮干…と、純和風が定番だからです。
最初はこちらも気を使って彼女に合わせたメニューも用意しましたが、いつまでもそうしているわけにはいきません。
しばらくして、彼女に小さな挑戦を促しました。できるだけ私たちの日常と同じ物を食卓に並べるようにしたのです。
当然、戸惑い気味の彼女でしたが、徐々に、
「ニボシ、今日は五分の一だけタベル。アシタ、五分の二。少しずつ増やして一週間でゼンブ!」
と、慣らすこと四か月。
不思議なもので、わが家を離れるころには、
「ごはん、大スキ!」
「味噌汁ないとサミシイ。サカナ、オーイシイ」
と、すっかり日本食ファンになっていました。
■この姿を何より喜んだのは、私たちホストファミリーです。それは彼女に対して一つの願いを持っていたからです。
(日本の一般家庭で暮らしながら日本を学びに来た彼女なのだから、自分とは違う、いろんな価値観を受け入れられるようになってもらいたい)
そう思っていたのです。
わが家のステイが終わりに近づいた頃も、彼女が食べられないものはまだまだたくさんありました。でも最初は食べることができずに敬遠していた異国の食べ物の一つひとつに挑戦し、小さな壁を乗り越えていく姿に、私たちは、彼女が人としてもたくましく成長していくのを感じました。
未来ある若者が、異なる文化や価値観にふれ、それを受け入れる。そうすることによって自らの幅を広げていくことは、とても大切なことのように思えます。そのことをあらためて認識させてくれた、ヘイリーとの出会いでした。
ヘイリー